スポーツやパフォーマンス直前のストレッチは有害か?−Ⅲ

ここからがこの記事のタイトルでもある“スポーツやパフォーマンス直前のストレッチは有害か?”という疑問にたいする結論となります。

このように考えれば、とても分かりやすいはず。

神経伝達物質のスピードがどうとか、どこからどこへと神経の経路がつながってなどと考える必要はありません。

もっとシンプルに現象から、あるいはご自身の日常体験をベースに想像してみてはいかがでしょう。

温泉につかった後で、あるいはサウナから出た直後、リクライニングチェアに横になり、完全にリラックスした体と頭の状態を味わっていらっしゃる自分自身をイメージなさってください。

こんなとき、突然、「走れ!」、「アップテンポの音楽に合わせて踊れ!」、「素早く動き回れ!」、「格闘技の試合をしろ!」、あるいは「神経を研ぎ澄ませて、周囲のどんな細かい異変にも気付け!」と命じられたらどうでしょう?

「そんなの無理に決まっている。不可能だ!」とおっしゃるはず。

ここまで極端ではなくても、自分自身で正確に十分に筋肉を伸ばすストレッチを全身、あるいは下半身の主要な部分にたいして10分間でもしていれば、その直後に伸び切っている筋肉を動かす、つまり縮めさせることが不可能になってしまうのです。

ていどの差こそあれ、心身リラックス状態からそくざに素早く動くということが無理だというのはおなじ。

「そんなこと当たり前。今さら、わざわざ何でそんなことを言っているんだ?」と感じられる方がいらっしゃるかも?

有害かどうかというのは極端なケースをイメージすれば分かります。

温泉でゆったりとしてリラックスしている直後に、「さあ、今から1分後に100m走のスタートです」と言われるようなもの。

逆の言い方をすれば、「100m走のスタートの5分前まで温泉につかってリラックスするのは良いことですか? それとも、悪いことですか?」ということ。

ストレッチも同じ。

スタティック・ストレッチングのことをストレッチと広い意味で呼んでいるのだとしたらですが…

もっている競技の能力、つまりパフォーマンス性の実力の半分も出せないだろうし、できるはずという意識と体の反応の差が大きすぎるため、ケガをする危険性もひじょうにアップするのです。

それも、ケガを防止するという高い効果をもっているスタティック・ストレッチングのお蔭で…

心身、つまり筋肉もそのまわりの体の組織も神経も完全にリラックスして弛(ゆる)んでいる状態のまま、一気に強い力を入れたり、動くということは、筋肉や神経や血管や神経や皮膚までもが伸びている状態のまま、瞬時に、筋肉をほぼ限界まで緊張させて縮めなければならないということ。

できるはずありません。

そう言えば、先日参加させていただいた、コントーション(≒柔軟・バランス芸)の初心者向けセミナーの講師をつとめられた指導者の先生も、セミナー中、何度も繰り返して注意するようおっしゃっていました。

『ストレッチや柔軟(じゅうなん)のトレーニングの後、しばらくの間は筋力トレーニングはしないでください。筋肉が伸びきった状態なのでとても危険ですから』と…

それを聴きながら「ここまで特別な手法で脱力しながらストレッチをつづけたら、その後しばらくは筋肉を強く収縮させればケガは当たり前。100m走の直前に、じっくりとストレッチすることよりもずっと危険だ…」などと考えていました。

でも、そのセミナーの参加者の方々の中には、実感として理解できない方もいらっしゃったのでしょう。

セミナー終了直後に、参加者のうち数名の方が、天井近くに渡してあるウンテイ(モンキー・バー)を使って懸垂(けんすい)を始めたときには、講師の先生、大慌てで制止なさっていらっしゃいました。

たしかに、人さまにお見せするほど体を軟(やわ)らかくする特殊でハードなトレーニングの直後ですから、筋肉は完全に弛んでいたはずだし、また神経もどちらかと言えば副交感神経が主導状態、つまりリラックス状態だったことに間違いはありません。

その体のままでハードな筋力運動をするというのは、大ケガや重大事故を引き起こしかねない危険な行為だということを、指導経験的にもご自身のコントーショニストとしての長年のトレーニング経験からも身にしみてご存知だったのでしょう。

さて、今回で3回目となる記事のタイトルの質問“スポーツやパフォーマンス直前のストレッチは有害か?”という質問への回答となります。

ストレッチがスタティック・ストレッチングのことを意味しており、筋肉や、厳密に言えば、骨以外の皮膚や神経もふくめた軟部組織(なんぶそしき)をすべて伸ばすことができていれば、つまり正しいストレッチ(=伸張;しんちょう)ができるならば、それは有害。

ですが、そのストレッチが、ダイナミック・ストレッチングであったり、バリスティック・ストレッチングであるならば、きわめて有効となる。

色々な理由が考えられますが、ブレーキとなる筋肉をリラックスさせないていどに柔軟(じゅうなん)にするのと同時に、使うべき筋肉を支配している神経の活性化が促進するということがあげられるのではないでしょうか?

結論だけ聴くとひじょうに簡単でシンプルではありますが、この理論的裏付けまで申しあげるとひじょうに複雑になってしまいます。

かといって、一読すると簡単すぎる(?)この結論だけで終えてしまったは、今まで3回にもわたりこの記事にお付き合いいただいた方に申し訳ない。

ということで、次回の最終回では、個々の種類の具体的なストレッチのやり方に付いては直接の指導なしではお伝えすることは無理なのですが、当院の施療や運動指導をお受けいただくスポーツ競技者や様々なジャンルのダンサーの皆さまへとお伝えしている、ウォームアップとクールダウンのストレッチの組み合わせ方とその種類の使い分けに付いて、誤解のないように、できるだけシンプルにお伝えしたい。

競技やパフォーマンス前にどのようなストレッチをしたら競技性やパフォーマンス性を落とすことなく筋肉の柔軟性をあるていどUPすることが可能かどうかという点だけではなく、それ以外のシーンでのストレッチ実施方法に付いてもしゃちほこばらずに説明させていただきたいと考えております。

気楽にもう1回、お付き合いいただければと考えております。

《スポーツやパフォーマンス直前のストレッチは有害か?−Ⅳにつづきます》

→ スポーツやパフォーマンス直前のストレッチは有害か?−Ⅰはこちらへ

→ スポーツやパフォーマンス直前のストレッチは有害か?−Ⅱはこちらへ

この記事をお読みくださり、ストレッチ全般に興味をもたれた方は以下の記事をご覧いただければと思います。

→ ストレッチングって何?

→ 当院で用いている“関節内部機能回復調整法”と全ての“ストレッチング”はこちらへ

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