軟(やわ)らかい体をもっと軟らかく!−3:本番用の練習だけだと左右アンバランスに!
前回の記事“軟(やわ)らかい体をもっと軟らかく!−2:本番(=演技やパフォーマンス)と練習はちがう!?”の最後に、「骨盤をバカ正直に(!?)まん前に向けることで前後開脚をよりむずかしくしたあげくに脚が短く見られるよりも、少しでも楽に前後開脚ができて、厳密には観客にたいしてそう見せ、同時に脚もより長くスタイル良く見せ付けることの何が問題問題なの?」と考えてしまいがちな問題点に付いてチェックするとお伝えしました。
結論から先に申し上げるならば、《骨盤を斜めにしていることを観客に気にならないようにおへそから頭のてっぺんまでが前に向くようにひねったポーズに何の問題点もありません》。
演技者やパフォーマーのお体にも悪い影響はないし、お客さまにもより深い感動が与えられるはず。
でも、これをいつも片側ばかりやっていたらどうでしょうか?
そして、練習のときも骨盤を正面に向けずに斜めのままで行っていたらどうなのでしょうか?
この2つの疑問がとても重要となってくるのです。
少し遠回りでまどろっこしく感じられるかも知れませんが、お付き合いいただければと思います。
今までに、フラメンコ、バレエ、フィギュアスケート、直接打撃制の空手道、コントーション、新体操、ジャズダンス、ポールダンス、ヒップホップなど、それぞれの分野において高い柔軟性をすでにお持ちのお客さまへと《柔軟性より向上のための施療と指導》をさせていただいてまいりました。
そして、皆さまに対し、おひとりの例外もなく感じたのが左右差。
お体の左右での柔軟性(じゅうなんせい)の差。
アンバランスだったのです。
技術や演技やパフォーマンスのレベルが高ければ高いほど、そして練習量が多ければ多いほど、お体の左右、また見落としがちな体の前後と上下(=上半身と下半身)の関節内部の骨の動きと体の外側にあってご自身でも感じることができる筋肉だけでなく、感じることがむずかしい奥にある筋肉のバランスまでもが大幅にくずれていらっしゃった。
前回の記事の後半で例とご紹介申し上げた前後開脚(ぜんごかいきゃく)は言うに及ばず、通常の股割りやサイドスプリット、そして片脚で立ちもう一方の脚を後に大きく上げてその足首を両手で頭越しにつかむビールマンポジションや、やはり立った状態で片脚を横に大きく上げて体の横に並べるように立ててそれを手でつかむY字バランスにおいても同じ。
とにかく、左右の差は非常に大きかったのです。
原因をひとことで言えば、《見せるための練習のやりすぎ》ではないかと考えております。
たとえば、先生やコレオグラファーから振付けてもらった演技やパフォーマンスにおいて左右、どちらか片側だけを柔軟に曲げる動作を行ったり、あるいはそちら側を曲げる場面が多いケース。
ご自身で自分の演技やショーの振り付けをなさるばあいに多く見かけるのは、左右、前後で得意な方ばかりを行う。
とくに柔軟性を強調することが多い競技分野では、左右以外に前後のバランスの崩(くず)れが目立ちます。
体を前に曲げる柔軟性よりも後ろに反る柔軟性の方が数段アピールできるために、体全体を反らす方向の柔軟が中心となってしまうからなのでしょう。
前後のアンバランスは下半身のむくみや冷え、そして下半身太りの原因になることはすでに別のいくつかの記事でお伝えしてあるので、今回はわかりやすい左右のアンバランス、左右差に限定して考えてみることにしましょう。
前回お話した前後開脚を思い出してみてください。
前に出している脚の太ももの裏側の広い範囲と、脚の付け根とお尻をつないでいる筋肉が目いっぱい(?)伸ばされています。
ちなみに、足首は反らさず前方へと倒しているので前の脚のふくらはぎは伸びておらず、かわりにスネの骨の外側隣りの筋肉が伸びているはず。
後ろの脚の方はどうかと言うと、太もものまん前の筋肉も少し伸びていますが、一番キツイというか伸ばされているのは太ももと骨盤の上の部分を結んでいる筋肉と太ももと背骨の腰の部分をつないでいる筋肉ですね。
じつは、ビールマンポジションの最初の練習でキーとなってくるのはこの筋肉の軟らかさなのです。
このように、前と後ろに出した脚では、ほぼ反対側の筋肉が伸ばされているということ。
このとき前も後ろも脚と床の間にすき間ができずにべったりと床にくっ付くまで両方の脚が開いてくれれば問題はありません。
無駄な力が入っていない、理想的なスタティックストレッチング、いわゆるふつうのストレッチが完璧な形でできているから。
でも、まだ完全にはできないけれど、頑張って練習のために前後開脚をしているという方は、力を抜く側と反対側、つまり前に出した脚のコマネチラインの奥の方と後ろに出した脚の付け根からお尻の辺りにかけての裏に力を入れてしまうのがふつう。
こちら側だけに注目すると、筋肉に力を入れるトレーニングとなっている。
大ざっぱな言い方を許していただければ、練習中の方々は、『前の脚の裏側を伸ばしてストレッチし、表側を縮めて鍛えている』とどうじに『後ろの脚の前側を伸ばしてストレッチし、裏側を縮めて鍛えている』ともいえるのです。
これ自体、体に害はありません。
でも、こととき左右やらずに、いつも片側だけやっていたとしたらどうでしょうか?
『いつも右脚を前に出して左脚は後ろに伸ばしているとか、あるいはその逆しかやらない』というケースがあったとしたら?
《いつも前に出している方の脚の太ももの裏側は軟らかく、表側は硬い。後にばかり伸ばしている脚の鼡径部(そけいぶ:コマネチライン)の奥の筋肉は軟らかいのに、太ももの裏側の付け根からお尻にかけてはトレーニングのせいでカチンカチン…》
じつは、完全に脱力ができる方が片側だけやりつづけても、実は似たような問題がでてくるのです。
そして、この硬い筋肉と軟らかい筋肉のアンバランスは日常生活でもつづいていく。
その競技やスポーツやパフォーマンスを引退したり、止めたとしても、そのアンバランスは体の歪(ひず)みとして残り、色々と悪さをしかけてくることになる可能性が高いということなのです。
そんな大げさなと思われたもいらっしゃるかも知れません。
でも、現在、柔軟性が必要とされる競技やスポーツやパフォーマンスを行っていらっしゃる方々には思い当たることがあったのではありませんか?
次の練習のときに、仲間や先生やコーチの体をさりげなく観察してみてください。
まっすぐに気を抜いて自然に立っているときの姿を。
・両肩の高さは同じですか?
・首が片方に傾いてはいませんか?
・肩の骨の位置は前後にずれていませんか?
・体幹(たいかん:首の下からウエストまで)が微妙に左右にねじれてはいませんか?
・骨盤の片側が前へと出っ張ってはいませんか?
・片側の脚の付け根だけ外か内へとねじれてはいませんか?
全体のシルエットで見たらスッと真っ直ぐで傾きもねじれがなくても、体の部分部分に注目して観察すると、多くの小さな傾きやねじれとそれを修正するための逆方向への傾きやねじれが見つかるはずです。
そして、《傾きを傾けで修正し、ねじれをねじりで元に戻す動作は寝ているとき以外はいつも行われている》のです。
それも無意識のうちに癖として。
今回は長くなりましたので、また次回にお付き合い下さい。
当院でのお体のチェックにご興味をお持ちくださった皆さまやお体の左右差を強く感じていらっしゃる方。
演技やパフォーマンスのときに片側ばかり行っていて反対側では同じことがやりにくいと毎回実感なさっていらっしゃる方。
いらっしゃいましたら、当院の初回特別コースでお体の状態を骨と筋肉、両方の動きからチェックしてみませんか?